みちびき/QZSSでGNSS測量はどう変わる?

みちびき(QZSS)は「日本版GPS」としてテレビなどのメディアにも大きく取り上げられ、話題となりました。
みちびきによって測量の分野での精度はどう変わるのか?
このページでは、みちびきの特徴とGNSS測量の精度について解説します。
みちびき/QZSSとは?
みちびき(QZSS)は日本が打ち上げた衛星測位システム。
現在は初号機を含めた4機が打ち上げられており、昨年11月から4機体制でのサービスがスタートしました。2024年には7機体制での運用が計画されています。
「日本版GPS」とも呼ばれるみちびきですが、地球全体をカバーするアメリカのGPSシステムとは違い、みちびきは日本を中心とした一部地域をカバーする補助的なシステムです。
みちびきで他のGNSSシステムを補うことで、日本周辺地域での衛星測位サービスの強化・安定供給を目的としています。
日本の上空に長く留まる準天頂軌道

みちびきは日本の上空で8の字を描く軌道(準天頂軌道)を周回する3機と、赤道上の静止衛星1機の計4機で運用されています。
この8の字を描く特徴的な軌道は、衛星が日本の真上を通過する時間が長くなるように設計されており、 GNSS測量で衛星の電波が受信しやすい仰角70度以上の空を、3機のみちびきが8時間おきに順番に通過していきます。
日本のほぼ真上、仰角70度以上にある衛星の電波はほぼ遮られること無く受信できるため、GNSS測量に適した衛星配置が実現します。

GPS衛星との互換信号を発信

みちびきは複数の信号を発信していますが、中でも測量に使用するL1、L2の2つの周波数の信号は、アメリカのGPS衛星と互換性をもっています。
そのため、みちびきの電波は従来の測量機でもGPS衛星と同じように受信することができ、常に日本で使いやすい位置にあるGPS衛星が増えた状態で測量が出来るようになりました。
みちびきで何が変わるの?

いま、みちびきが工事測量に与える影響は1つ。
それは、
GNSS測量の精度が安定する
ということです。
ニュースを見た印象から、「精度が良くなるんじゃないの?」と思った方も多いのではないでしょうか。実は、みちびきで現場レベルのGNSS測量の精度はあまり変わらないのです。
現場でよく実施されるGNSS測量(RTK-GNSS測位/VRS方式)の測位精度は誤差3~4センチほど。そして残念ながら、みちびきを使ってもこれ以上の精度が出るわけではありません。
しかし、みちびきによって改善した問題もあります。
みちびき運用で改善したGNSS測量の問題点
GNSS測量には、測量を行う技術者にはどうしようもない問題で、通常の精度が出せず数十センチの誤差が出てしまう時があります。
その精度低下の原因となるのが、下記の2つの問題です。
- 衛星配置が悪く、受信できる衛星が少ない時間がある
- 都市部や山間部でマルチパス誤差が起こりやすい
この測量誤差の原因となる2つの問題点がみちびきによって改善したことで、GNSS測量の精度はより安定したものとなりました。
誤差の原因(1) 衛星配置が悪くて受信できる衛星が少ない

GNSS測量では4機以上の衛星の電波を同時に受信することで精度を確保しているため、受信できる衛星が少ない時間帯は高い精度での測量が行えません。
2019年5月時点で、約130機のGNSS衛星が地球の周りをまわっていますが、そのうち日本で電波を受信できる衛星はごく一部です。しかも衛星は受信しやすい仰角の高い位置にあるとは限らず、仰角の低い衛星の電波はビルや山などの地形に遮られる確率が高くなります。
みちびきで改善
みちびきは、電波を受信しやすい日本の真上に長く留まる軌道を通ります。精度を確保するために必要な衛星の電波を受信しやすくなったことで、衛星配置に左右されない安定した精度で測量できるようになります。

誤差の原因(2) マルチパスの発生

マルチパスとは、衛星の電波が山などの起伏のある地形やビル(建物)に反射して、複数の電波のように受信してしまう現象です。
反射した電波は正常に受信した電波よりも受信時間がわずかに遅くなります。
GNSS測量は、衛星が電波を発信した時間と測量機で受信した時間を位置情報の計算に使用するため、 反射して遅れた電波を受信してしまうとGNSS測量の距離計算に誤差が発生し、測位精度が低下してしまうのです。
この反射による誤差をマルチパス誤差と呼びます。
みちびきで改善
仰角の低い位置にある衛星の電波は、ビルや地形にぶつかりやすくマルチパスを受信してしまう可能性が高くなります。
みちびきは日本のほぼ真上、電波の反射が起きにくい仰角の高い位置に長くとどまるため、マルチパス発生のリスクを下げることが出来ます。

結論:精度は変わらないが、安定した精度で測量できる
いかがでしたでしょうか?
みちびきは、他国のGNSSシステムを利用する上での欠点を補間する役目をもっています。
これにより、現場条件によっては大きな誤差が出ていた環境でも、安定した精度で測量できるようになりました。